「手は挙げない」一転
核ごみ調査受諾 玄海町長「議会の採択重い」 |
(出典) 毎日新聞朝刊/2024年05月11日
(過去の関連記事)
1)NPG2019_2022.06.20.html / 日本の原子力発電所マップ 22年版
2)NPG2132_2024.04.17.html / 核ごみ「受け入れぬ」
佐賀知事、処分場選定巡り
3)NPG2133_2024.04.23.html / 核ごみ文献調査 賛同の佐賀・玄海町議は
「20億円ほしいわけでは」 「原発立地自治体の責任」
4)NPG2139_2024.05.11.html / 原発立地 初の核ごみ調査
佐賀・玄海町長が受諾
原発から出る「核のごみ」を地下深く埋める最終処分地をどこにつくるか。 原発の立地
自治体が文献調査を受け入れると決めたことは、最終処分場選定を巡る議論に影響を与え
そうだ。 ただ、自治体の決断に頼る仕組みの課題も浮かび上がる。
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会見に臨み、質問を受ける脇山伸太郎・玄海町長=10日午後、
佐賀県玄海町、小宮路勝撮影 |
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「住民の代表が集う町議会で請願が採択されたことは大変重い」
佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は10日の会見で、「文献調査に手を挙げる考えはない」と
繰り返してきた自身の考えと議会との「板挟み」で苦しんだ、と吐露した。
長崎県対馬市議会では昨年、同様の請願が小差で採択されたことを引き合いに出し、「(町
議会は)6対3で大多数が賛成し、プレッシャーがかかった」とも述べた。
町長に近い人物は「議会にケンカを売れば議会対応に支障が出て、結果的に町民に迷惑が
かかる」と町長の心境を推し量った。
一方で決断が早すぎるとの批判も。 請願が表面化したのは4月15日で、26日に採択され
た。 町長の決断はそれから2週間後だ。 議会の審議は町民向けテレビ放送で繰り返し流さ
れたが、住民説明会は開かれていない。 「玄海原発対策住民会議」の成富忠良会長(82)
は、町民の声をほとんど聞かずに判断したと批判した。
そもそも町は、経済産業省が最終処分地の適性を示した「科学的特性マップ」で、地下に
石炭があるため、ほぼ全域が「好ましくない」とされている。 国側は、マップは「広域の概略
的な地質の状況」を示したものに過ぎないと説明。 調査によって適地が見つかる可能性も
あるとする。
ただ、処分場の候補地として可能性が比較的低いことに変わりはない。 それでも、文献
調査に応じれば最大20億円の交付金が支給される。
経産省の審議会委員を務める寿楽浩太・東京電機大教授は「仮に最終処分に有望な区域
を選定するとすれば、専門家が好ましくない地域は除外するはずだ。 自治体からの公募
方式を取る現状の仕組みでは、こうした地域でも調査し最大20億円の交付金も支給する
ことになる。
それが本当に適切なのかという異論は出るだろう」と話している。
(添田樹紀、岡田将平、渕沢貴子)
先行の北海道2町村 国が進展期待
核のごみの最終処分地選定に苦心する経済産業省にとって、積極的な働きかけが実った
形だ。
今月7日、斎藤健経産相は大臣室を訪ねた脇山町長に「我々の世代で解決への道筋を
つけていきたいと強く思っている」と語りかけた。 文献調査の受け入れを「大変悩んでいる」
と明かした脇山氏の背中を押したのだ。
会談を提案したのは経産省だった。 昨年には、長崎県対馬市で文献調査受入れを求める
請願を市議会が採択したものの、市長が風評被害への懸念などを理由に反対を表明した
ばかり。 省内には、その二の舞いは避けたいとの思惑もあった。
国は全国約10カ所で文献調査をし、適地を選ぶことをめざしている。 昨夏には、電力会社
や原子力発電環境整備機構(NUMO)との合同チームをつくり、「全国行脚」を始めた。
訪問した自治体は100を超える。
ただ、玄海町のほかに文献調査を受け入れた自治体は北海道の2町村だけ。 今年2月に
示された報告書案では、2町村とも活断層や活動の恐れがある火山などを避ければ、次の
概要調査に進める候補地はあるとした。 だが、鈴木直道知事は概要調査の実施には反対の
姿勢を崩していない。 鈴木氏はこの日の定例会見でも、「国やNUMOが引き続き全国にお
いて最終処分事業の理解促進に努めることが必要だ」と述べるにとどめた。
一方、神恵内村の高橋昌幸村長はこの日、玄海町長の判断について、「心から敬意と感謝
を申し上げたい」とのコメントを書面で発表した。 経産省内には、玄海町が新たに調査に入
ることで、北海道でも議論が進むと期待する声がある。
(三浦惇平、新田哲史、松尾一郎)
「核のごみ」とは、原発で使い終えた核燃料から出るごみのこと。 高レベル放射性廃棄物と
呼ばれる。 使用済み核燃料からプルトニウムやウランを取り出す際に出る廃液を、ガラスで
溶かし固めた「ガラス固化体」を指す。 人が近づけば約20秒で死ぬほどの強い放射線を出
し、放射能が天然ウラン並みになるまで数万年かかる。
国内には約1万9千トンの使用済み核燃料があり、ガラス固化体で約2万7千本に相当
する。 最終処分場の地下施設の広さは6〜10平方キロ、約4万本を埋める想定だ。
ガラス固化体は厚さ約20センチの金属容器に入れたうえで、厚さ約70センチの粘土で包み、300メートル以上の深さの岩盤に閉じ込める。
国は最終処分場を選ぶための調査を受け入れる自治体を2002年から募ってきた。
最初の文献調査は、数百点の文献やデータなどを調べる作業で、机上で終わる。 地元での
「対話活動」にも力を入れ、最大20億円の交付金が出る。 次の概要調査だと交付金は最大
70億円になる。 原資は電力会社が支払う電源開発促進税で、元手は電気料金だ。
(福山亜希)
都市圏含めた議論を
松岡俊二・早稲田大教授(環境経済・政策学)の話
国は「いろんな自治体が手を挙げて、(最終処分場選定の)文献調査をしてくたさい」と呼び
かけているが、「適地」とされない地域でも調査対象になるなど、問題を先送りしているように
感じる。 処分場は本来、国の原子力政策の根幹に関わる問題。 東京など都市圏の電力
消費者が使ってきた(発電に伴う)廃棄物も処分場に入るわけで、玄海町だけの問題ではな
い。 どういうリスクがあり、それをどう考えていくのか、日本社会全体の問題として、都市圏
の電力消費者も含めて広く議論するべきだ。
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