社説 Editorials 
「約束」に責任負えるか
|
(出典) 朝日新聞朝刊/2024年08月14日
(過去の関連記事)
(1)NPG2156_2024.07.30.html / 中間貯蔵 搬入を容認
使用済み核燃料 青森知事が表明
(2)NPG2157_2024.07.30.html / 50年後の搬出 不透明なまま
中間貯蔵を容認 青森・むつ
原発から出る使用済み核燃料の「中間貯蔵施設」が、青森県で動き出す。 再処理を待つ
間の当面の保管との建前だが、「核燃料サイクル」の行き詰まりから目をそらした先送り策と
言わざるをえない。 現実を直視し、抜本的な政策転換を図るべきだ。
施設が立地する青森県とむつ市、東京電力ホールディングスと日本原子力発電の子会社
「リサイクル燃料貯蔵」が9日、安全協定を結んだ。 貯蔵は最長50年間と定める。
政府は、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、MOX燃料にして発電に
再利用する核燃料サイクルを推進してきた。 だが、要になる再処理工場は、当初1997年
の予定だった完成が26回も延期されてきた。
現時点の完成予定は今年9月だが、延期不可避とみられる。 これまでの相次ぐトラブルを見れば、完成後も、安定的な操業は見通しにくく、コストもかさみかねない。
再処理の先も問題だ。 MOX燃料を使う高速増殖炉は、原型炉の「もんじゅ」が問題続出
で廃炉が決まり、事実上頓挫している。 足元では既存の軽水炉でサイクルを回すという
が、現状は4基どまりだ。 しかも、そこで使ったMOX燃料の再処理は実用化のメドが立っ
ていない。
プルトニウムは核兵器に転用可能で、余剰を持たないのが日本の国際公約だ。 発電に
使うあてがなければ、再処理工場は動かせない。
結局、再処理の手前で、使用済み核燃料がたまることになる。 これまで保管してきた全国
の原発のプールが満杯になれば、原発自体が運転ができなくなる。 苦肉の策で、中間貯蔵
施設をサイクルに組み込み、時間稼ぎをしようというのが実態だ。 中国電力と関西電力
も、山口県上関町での建設を検討している。
青森県の県民説明会では、「最終処分地になる」などと懸念する声が相次いだが、地元と
しては当然だろう。
県は、核燃料サイクル事業が困難になった場合には燃料を施設外に搬出する覚書を事業
者と結んだが、50年先の約束に誰が責任を負えるのか。 新しい受け入れ先を見つける
のも容易ではないはずだ。
技術面、経済性、核不拡散のいずれから見ても、核燃料サイクルを続ける理はない。 にも
かかわらず、過去の計画に固執し、一時しのぎの策を重ねるようでは、将来世代へのツケが
膨らむばかりだ。
確かに政策の抜本見直しは簡単ではないが、傷口をさらに広げる前に、再処理に頼らな
い選択肢の検討へ方向転換すべきだ。
 TOPページへ戻る
|
|
