(出典) 朝日新聞朝刊/2025年05月01日
北海道電力泊原発3号機(北海道)の審査には11年9ケ月の歳月を要した。 政府は「原発
回帰」を進めるが、これから再稼働をめざす原発も、大半は審査が難航している。
 (参照)NPG2227_2025.05.01.html / 泊3号機 新基準「適合」 27年にも再稼働 審査11年9ケ月
北海道電力が泊原発の審査を申請したのは、新規制基準が施行された2013年7月8日。
ほぼ同時期に申請した関西電力高浜原発(福井県)など、他の3社5原発とともに審査が始ま
った。
先行した九州電力川内原発(鹿児島県)は1年で主な審査を終えた。 続く4原発も長くて
約3年半だった。 いずれも事故を起こした東京電力福島第一原発とは異なる加圧水型炉
(PWR)というタイプ。 泊原発の11年9ケ月は際立って長い。
活断層か否か
なぜ泊原発の審査は滞ったのか。 その最大の要因は、敷地内の断層だ。
新規制基準では、12万〜13万年前以降に動いたことが否定できない断層を活断層とみな
す。 原子炉のごく近くにあれば、大きな揺れを想定して耐震対策を大幅に強化する必要が
ある。
北電によると、泊原発の敷地内には11の断層が走り、一部は活断層の可能性が指摘され
た。 北電は、この断層の上に約20万年前に積もった火山灰の層があり、その層にずれが
ないとして活断層ではないと主張。 火山灰の年代を測り、断層が古いことを立証しようと
した。
だが、わずかな火山灰の粒子から全体を推定する手法だったため、原子力規制委員会は
「科学的に到底認められない」と主張を退けた。
現地調査でも火山灰の層はみつからず、規制委は19年2月、「活断層の可能性が否定でき
ない」とする見解を示した。 審査は事実上、振り出しに戻った。
北電態勢脆弱
こうした立証の甘さの背景には、北電の脆弱な審査態勢があった。 当時の更田豊志委員
長は北電社長に「地震、津波、火山について専門的議論に応じられる人材が欠けてる」と
苦言を呈した。
北電は、外部から地質の研究者を招き、ゼネコンなどの支援も受けた。 あらためて敷地内
の別の場所を掘削し、断層の上にある地層が12万〜13万年前より古いことを説明。
規制委は21年7月、主張を認めて「活断層の可能性」の見解を覆した。
さらに規制委は翌22年から「泊スペシャル」として異例の対応をとる。 審査会合のたびに
論点や作業方針を北電と確認し、説明すべきことを伝えた。 更田氏も「手取り足取り感は
出ている」ともらしていた。 そこから審査は加速した。
こうして11年9ケ月かけて示された「適合」の判断だが、地震の想定が過小との声も上がる。
北電は、規制委の指摘を受け、積丹半島沖にある約22.6キロの海底活断層が地震を起こ
すとして揺れの大きさを試算。 規制委も認めた。
専門家ら懸念
一方、地質の専門家らは、昨年1月の能登半島地震の事例を挙げ、積丹半島周辺の地形の
特徴などから、この活断層は60〜70キロ以上にわたって動くと指摘。 北電の想定を上回る
地震を起こすとして、審査のやり直しを求めている。
(小川裕介)
再稼働 知事同意が焦点
泊原発3号機は2009年12月に営業運転を始めた日本で最も新しい原発だ。 北海道内
の電力需要のピーク(約500万キロワット)の2割近くをまかなえるが、12年5月以降は止まっ
たままだ。
巨費を投じながら2年半しか動いていない3号機の再稼働は、北海道電力の「悲願」だ。
北電は販売電力量の5割超を火力発電に頼っていて、電気料金は全国で最も高い水準に
ある。 斎藤晋社長は4月30日の決算会見でも「27年のできるだけ早期の再稼働に向け、
安全対策工事を着実に進める」と改めて強調。 3号機が再稼働すれば値下げするとも明言
している。
道内の電力需要が増えそうなことも、再稼働に期待をかける理由の一つだ。 最先端半導
体の量産化をめざす「ラピダス」が千歳市に工場を建て、ソフトバンクも苫小牧市に国内
最大級のデータセンター(DC)を建設中。 いずれも電気を大量に使う産業で、国の「電力
広域的運営推進機関」は、道内の最大電力需要が30年度には現在より約1割増えると予想
する。
泊3号機の再稼働はラピダスが量産を始める27年に間に合うかは不透明だが、北電は
いまの発電能力で当面は賄えるという。 ただ、関連産業がさらに集まれば原発などの「脱炭
素電源」の需要が高まり、再稼働は欠かせないとする。 30年代前半には泊1、2号機も再稼
働させる青写真を描く。
しかし、北電の想定通りに再稼働できるかは見通せない。
ハードルの一つが「地元の同意」だ。 泊原発がある泊村
や周辺の首長に反対の動きはなく、同意を求められたら
応じるとみられる。 だが、鈴木直道知事は慎重な姿勢を
崩さず、30日の取材にも「審査が継続中なので、予断を
もって申し上げる状況にはない、ということには変わりは
ない」と述べるにとどめた。
もう一つのハードルは司法の判断だ。 札幌地裁は22年、
津波対策の不備を理由に1〜3号機の運転差し止めを命じ
る判決を北電に言い渡し、札幌高裁での審理が進んでい
る。
(上地兼太郎、新田哲史)
原発で2割 政府計画
電源構成 ほとんど動かせば到達
東日本大震災後、東日本では、昨年10月に東北電力女川原発2号機(宮城県)が再稼働
するまで「原発ゼロ」が続いた。 泊3号機が動けば、電力需給に余裕が生まれて本州にも
電気を融通しやすくなり、「東日本全体の安定供給につながる」(経済産業省幹部)という。
政府は電力需要が今後増加するとの見通しをもとに、2月に閣議決定したエネルギー基本
計画(エネ基)で「原発回帰」を鮮明にした。 ラビダスのような半導体工場やDCが増えると
想定し、原発など「脱炭素電源」の近くに関連産業を誘致するための支援策を検討している。
エネ基では、電源構成に占める原発の割合を、いまの8.5%(2023年度)から40年度には
2割程度に増やすとした。 その達成には、建設中も含めた全36基のほとんどを動かさなけ
ればならない。 原発の新増設が進まないなか、動かせる原発は少しでも長く使う必要も
ある。
東京電力福島第一原発事故後、原発の運転期間は原則40年とし、原子力規制委員会が
認めれば最長20年間延長できると定められた。 そのルールが今年6月から改められ、経産
相が認めた原発は、再稼働のためににかかった審査期間などを「上乗せ」できるようにる。
泊3号機は13年以上は上乗せできる計算で、少なくとも82年ごろまで運転できることになる。
(新田哲史)
 原発の新規制基準 どんな審査をするの?
災害に備え、安全性の基準を満たしているか確認
Q 国内の原発はどのくらい動いているの?
A 廃炉を決めたものを除くと、建設中の3基を含めて計36基ある。 これまでに27基が
再稼働に向けた審査を申請し、うち17基が新規制基準に適合すると認められた。
北海道電力泊3号機を含めると半数が審査を通ることになる。
ただ、地元の同意が得られなかったり、安全対策工事が終わっていなかったりする原発
もあり、実際に再稼働したのは8原発14基だ。
Q どんな審査を?
A 原発の運転に最低限必要な安全性の基準を満たしているかを確認する。 2011年の
東京電力福島第一原発事故の教訓から、原子力規制委員会が新基準をつくり、審査し
ている。 地震や津波、火山の噴火といった自然災害を想定し、それに備えた設計を求め
るほか、原子炉が冷やせなくなるような過酷事故への対策も初めて義務づけた。
Q 審査を通らないことはあるのか?
A 昨年11月に日本原子力発電敦賀2号機(福井県)が不許可になった。 原子炉建屋の
真下に活断層がある可能性を否定できず、新基準を満たせなかった。
Q 審査にかかる期間は。
A 原発の立地状況や原子炉のタイプによっても異なる。 設計の違いなどから福島第一と
同じ沸騰水型炉(BWR)よりも、加圧水型炉(PWR)の審査が先行した。 泊3号機が
適合と認められれば、不許可の敦賀2号機を除いてPWRをもつ全4社の原発が審査を
通ることになる。
一方、BWRは東北電力女川2号機(宮城県)と中国電力島根2号機(松江市)の2基が
昨年、再稼働した。 東電柏崎刈羽6、7号機(新潟県)と原電東海第二(茨城県)は審査
を通ったが、地元の同意が得られていない。
Q エネルギー政策の中で、今後はどうなるのか。
A 政府は今年2月に閣議決定したエネルギー基本計画で「原発依存度を可能な限り低減
する」という文言を削り、廃炉を決めた原発の建て替えを進める方針だ。
(矢田文)
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