 核融合発電 実証めざし議論へ
安全規制方針まとまる 新技術に懸念の声も
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(出典) 朝日新聞朝刊/2025年03月28日
(過去の関連記事)
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核融合の国際競争激化 日本も「挑戦」を支援
次世代のエネルギーとされる核融合発電について、国が安全規制の方針を25日に初めて
まとめた。 核融合特有の安全性があるとして、フランスがとる原発と同様の規制までは不要
としたが、パブリックコメントでは新技術への懸念の声も寄せられた。 国は2030年代の発電
実証をめざしており、今後は立地も含めた議論が進むことになる。
 岐阜県土岐市にある「核融合科学研究所」。
そこから1キロ余り、同県多治見市の団地に住む千野純一
さん(77)は、谷の向こうに見える建物を眺めながらつぶや
いた。
「団地から研究所はよく見える。 当初は問題があると考え
ていたが、今はもっと活用してもらいたいと思っている」
太陽の中で起きる核融合反応を人工的に起こし、エネル
ギーを取り出す核融合発電は、1950年代から研究が続い
てきた。 燃料を海水から取り出せる可能性があるとされて
いる。
89年に設立された核融合研では、水素の同位体である
重水素を燃料として使って高温のプラズマを生成する実験
を計画してきたが、実際に始まったのは2017年。 地元の
同意が得られるまで10年以上、開始を見合わせた経緯が
ある。
千野さんの地区も反対運動をしていたが、10年に取り下げ
を決めた。 「研究所からも人を招き、たくさん勉強した」と
千野さん。 燃料ごとに発生する粒子が異なると知り、研究所外への影響は抑えられるのではと納得した。 「原発より安全な発電方法になるかもしれない。
ただ技術の理解は難しい。 住民が納得できるよう今後もきちんと説明してほしい」
仏は「原発同様」
文部科学省によると、ヘリカル型と呼ばれる方式を研究する核融合研と、量子科学技術研究開発
機構のトカマク型の装置(茨城県)で、微量ながら核融合反応が起きてきた。 こうした小規模施設
は、粒子の加速器などと同じ「放射性同位元素等規制法(RI法」で規制してきた。
これに対し、ウランなどの原子核の分裂を利用する原発は「原子炉等規制法(炉規法)」に基づいて
規制。 重大事故を起こさないよう、地震や津波などに備えた厳しい対策を求めている。
海外では、フランスが原発と同様の枠組みで、米英では加速器と同様に規制している。
政府は昨年5月、国内でも大規模な核融合炉の実現を想定し、専門家委員会で議論を始めた。
炉規法とRI法を所管する原子力規制委員会(規制庁)も交えて意見を交わした。 業界団体の関係
者からは「厳しすぎない規制を」との声も出ていた。
今月25日に示された安全規制の「基本的な考え方」では、核融合炉のリスクとして、トリチウム
(三重水素)など放射性の燃料の使用や、反応に伴う中性子線の発生、放射性物質の閉じ込め機能
の喪失などを記載した。
一方で、燃料の供給や電源を止めれば反応も止まり、核分裂のような連鎖反応が起きない「安全性
の特徴を有している」と整理。 「当面は現行のRI法の対象としての規制を継続することが適当」と
結論づけた。 ただ、実用化が近づけば、新しい法体系での規制も検討が必要だとした。
パブリックコメントでは「核融合に注ぎ込むリソースがあるなら、東京電力福島第一原発(事故)の
収束などに集中させてほしい」 「安全性に関わりなく、核融合の研究開発利活用は反対だ」との意見
も寄せられた。
これに対し、内閣府は「フュージョン(核融合)エネルギーはエネルギー問題を解決することが期待
される」 「議論の透明性を確保し、社会的に受容されるよう努める」などと説明する。
今回の方針をもとに、規制委は研究機関や事業者からの開発計画の聴取などを始める見通しだ。
国際競争が激化
核融合は国際的な開発競争が激化しており、大規模な核融合炉の立地も論点となる見込みだ。
米国では核融合ベンチャー「コモンウェルス・フュージョン・システムズ」が商用炉をバージニア州
リッチモンド近郊に建設すると発表。 100以上の候補地から選び、州の支援も受ける。 同社はマイ
クロソフト創業者のビル・ゲイツ氏らから20億ドル(約3千億円)以上の資金を集めており、30年代
初頭にも電力供給を始める計画だ。
英国ではノッティンガムシャー州の石炭火力発電所の跡地に原型炉が40年までに建設される予定
という。
日本では、原型炉の建設計画を5年以上前倒しし、30年ごろに製造設計や建設を始める検討が
進む。 青森県が誘致する考えを示している。 国内でも30年代の発電実証をめざすベンチャーが
複数あり、立地や安全確保の議論が本格化する、
原子力委員会の委員長代理を務めた長崎大の鈴木達治郎教授(原子力政策)は核融合について
「技術的には基礎研究の段階に近く、実現すると期待するのは時期尚早だと思う。 だが原型炉を
建設するのであれば安全規制が必要で、議論を始めたことは重要だ。 連鎖反応が起きないなど
核分裂反応との違いもあり、異なる規制とすることは理解できる」と指摘する。
その上で、原発の規制や立地の議論の教訓として「早い段階から市民をまじえて対話を進め、どん
な情報も正直に公開することが、安全に実用化する上では欠かせない」と話す。
(竹野内崇宏)
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