東日本大震災
福島第一 行き場なき放射性廃棄物
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(出典) 朝日新聞朝刊/2024年03月16日
(過去の関連記事)
(1)NPG2011_2024.09.03.html / 福島第1原発事故における汚染水対策 基礎資料
(2)NPG2111_2024.01.26.html / デブリ取り出し 年度内着手断念 福島第一2号機
雪まじりの雨が落ちる2月上旬の東京電力福島第一原発。 核燃料が溶け落ちる「メルトダ
ウン」を起こした1〜3号機から南へ1キロ弱離れた屋外エリアに、グレーの円柱状の容器など
が並んでいた。
中身は、汚染水の放射性物質をこしとったフィルターや汚泥。 汚染水から大半の放射性
物質を除去したり、溶けた核燃料(燃料デブリ)の冷却に使った水を再利用するために浄化し
たりするたびに、こうした放射性廃棄物が生まれる。
汚染フィルターや汚泥が入った容器の保管量は今年2月時点で計5708個。 近年は年
200個ほど増え続けている。
「周辺の線量はそこまで高くないので、ああやって歩ける」
東電の担当者が指さした先には、3段重ねの容器の上で働く作業員が見えた。 汚泥などは
非常に線量が高いが、容器を放射線を遮る素材にしたり、容器をコンクリートで囲ったりする
ことで、周囲の線量が上がらないようにしているという。
東電の担当者は「廃棄物の対応は2通り。 処理水のように環境への影響がない形で処分
するか、いずれ人の手を離れて最終処分ができるまで保管を続けるしかない」と説明した。
フイルターや汚泥に加え、コンクリートや金属のガレキ、過去の汚染水漏れで発生した汚染
土、用地確保のために伐採した木木などもある。 廃棄物の総量は、通常の原発を廃炉にす
る際の600基分に相当するという試算もある。 東電は今後、屋外の廃棄物を屋内の保管
施設に移していく方針だが、最終的にどこでどう処分するか、青写真はまったく描けていな
い。
(福地慶太郎)
示せぬ廃炉後 たまる廃棄物
白いシートで覆われたガレキ、使用済みの防護服などが入ったコンテナ、用地確保のために
伐採した木 ----。 東京電力福島第一原発の敷地の北側では、屋外で保管されている廃棄
物があちこちで目に入った。
「発電所の北側は、ほぼ全域が廃棄物の保管場所のような状態。 事故前は森だったところ
を切り開いて保管場所にした」と東電の担当者が言う。
福島第一原発は、福島県の大熊町と双葉町にまたがる。 南側の大熊町には事故を起こし
た1〜4号機や、汚染水を浄化した水が入る1千基超のタンクが並ぶ一方、双葉町にはさまざ
まな放射性廃棄物が保管されている。
事故で放射性物質が飛散し、原発の設備や機器はもちろん、敷地内の木や土なども汚染
され、大量の廃棄物が発生した。 貯蔵庫の容量が足りず、汚染水を浄化して出たフイルター
や汚泥とは別に、約47万立方メートルの廃棄物が屋外にあるという(今年1月末時点)。
だが、2021年3月には、屋外にあったコンテナの腐食が原因とみられる放射性物質漏れが
起きた。 東電は、廃棄物を屋内に移すため、貯蔵庫を建設中。 28年度までには屋外の
ガレキなどを屋内に移し終える方針だ。 今年2月には、ガレキをコンテナに効率よく詰める
ために切ったり砕いたりする施設が稼働した。
一方で東電は、廃炉完了時点で発生する最終的な廃棄物の総量については「分からない」
という。
事故直後に燃料プールに注水するなどして汚染された大量の車両も、外に持ち出せずに
原発の敷地内で保管されている。 「いずれは廃棄物として処分することになると思うが、
まだ対応は決まっていない」(東電の担当者)という。
溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)が1〜3号機で推計880トン、原子炉建屋や共用プールな
どで保管中の使用済み核燃料が計1万2337体ある。 今後はさらに、建屋や原子炉周辺
設備の解体、燃料デブリの取り出しなどの作業に使う機器も放射性廃棄物になると見込ま
れる。
原発事故後、復旧作業にあたった車両が集められていた↑
汚染土を保管しているコンテナ →
=いずれも2月5日、福島県大熊町、相場郁朗撮影
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「600基分」試算 撤去どこまで
福島第一原発について政府と東電は2051年までの廃炉完了を目標に掲げるが、その時の
具体的な姿は示していない。 地元の福島県は燃料デブリや使用済み核燃料を含む放射性
廃棄物を県外で処分するよう求めているが、議論は進んでいない。
技術コンサルタントの河村秀紀さんらは17年、関係者の議論に生かしてもらおうと、福島
第一原発の図面などの公開情報をもとに廃棄物の量の試算を発表した。
敷地の放射線量が下がり、自由に出入りできる状態にする場合の放射性廃棄物は約780
万トン。 事故を起こしていない原発の600基分に相当する。 廃棄物の三分の一は、汚染さ
れた建屋周辺の地下の岩盤や港湾内の堆積土などだという。
日本原子力学会の分科会が20年に公表した報告書は河村さんらの試算を引用し、更地に
する「完全撤去」、地盤などを残して管理する「部分撤去」のシナリオを検討した。 部分撤去
だと廃棄物量は完全撤去の約半分の約440万トンで、さらに放射性物質が自然に減るのを
待つ期間を置けば、約110万トンになるとした。
報告書は、国際原子力機関(IAEA)などの指摘も引用した。 事故を起こした原発は、廃炉
完了時の姿を見すえて計画を検討することが重要で、廃棄物の処分は利害関係者とのコミュ
ニケーションや社会的な合意なしでは解決が難しいという。
分科会主査の柳原敏・福井大客員教授(廃止措置工学)は、目標とする廃炉完了の姿に
よって廃棄物の量は変わるため、「今のうちから廃炉の最終的な姿、そこに至るプロセスも含
めて、世代を超えて国民全体で議論する必要がある」と指摘。 廃炉作業で発生する金属や
コンクリートは原発内の施設の建築資材などとして再利用し、「廃棄物の量を極力減らすこと
が非常に重要だ」と話す。
処理水教訓 「納得」探る対話
福島では、幅広い立場や年代の関係者の対話から廃炉完了の姿を探る試みが進んでい
る。
今年1月下旬、福島県広野町で開かれた「1F地域塾」。 1Fは福島第一原発の通称で、1F
の将来像を探ろうと22年7月に始まった。 9回目のこの日は、地元の住民や高校生、原子力
の専門家、東電や原子力規制庁の担当者ら109人が参加。 八つの班に分かれて、福島
第一原発を「事故遺構」として残すことについて意見をかわした。
地元の男性が「広島の原爆ドームのように遺構にするのは悪くない」と述べると、別の参加
者は「原爆と原子力は意味が違う」。 東電社員の男性は「長く残す場合、誰が管理するかが
問題」と話した。 別の班では「世界は原子力を使う流れ。 遺構にすれば『戒め』になる」と
いう声も出た。
地域塾の目的は、一つの結論を出すのではなく、将来の多様な選択肢を探ること。 自分と
違う意見でも否定せず、背景を含めて理解しょうと努めるよう参加者に求めている。
塾頭の早稲田大教授・松岡俊二さんは閉会のあいさつで、処理水の海洋放出に言及。
政府が専門家会議の検討をよりどころに放出を決めた後、多くの説明会を開いたが幅広い
納得は得られなかったことから、「処理水の問題の教訓は、方針の決定プロセスが大事という
こと」と指摘した。
そのうえで参加者らにこう呼びかけた。
「地域の方や専門家、政府、東電が一緒に考える。 異論がある人も『皆で議論して決めた
から納得しましょう』と言えるプロセスをつくる。 それが今の福島、日本に必要とされている。
多くの人が納得できる廃炉のあり方を、皆さんと一緒に考えていきたい」
(福地慶太郎)
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