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脱炭素 地熱発電で電気自給へ
三菱マテ 「50年度までに」目標
(出典) 朝日新聞朝刊/2024年08月20日
炭鉱祖業 地質調査のノウハウ
地熱発電を軸にした再生可能エネルギーで電気を自給し、2050年度までにカーボンニュー
トラルを実現する----。 炭鉱を祖業とする非鉄金属大手の三菱マテリアルが、そんな目標を
掲げた。 岩手で稼働させた地熱発電所を足がかりに、3年に1カ所のペースで新たな開発に
着手する方針だ。
(山本精作)
三菱マテリアルは銅の精錬などに電気を使う
=同社提供、香川県直島町
岩手県八幡平市の山岳リゾート、安比高原の中心から細い山道をクルマで30分ほど登る
と、標高1100メートルの国有林付近から蒸気が立ちのぼっているのが見えてくる。 三菱
マテリアルの子会社が今春に営業運転を始めた安比地熱発電所だ。
噴気試験中の安比地熱発電所=岩手県八幡平市、
2023年10月、三菱マテリアル子会社の「安比地熱」提供
地熱発電は地中のマグマによって熱せられた地下水や蒸気をつかって電気を生み出す。
安比の発電所では、深さ2千メートルの井戸から蒸気を取り出してタービンを回す。
発電能力は1.5万キロワット。 一般家庭2万6千世帯分の電気をつくり、地元の東北電力
ネットワークに売電する。 三菱マテが買う分と相殺して事実上の自給率を高める。
三菱マテの小野直樹社長は雪解け後の7月17日に開いた竣工式典の会場で、「50年度
までに国内の企業活動をカーボンニュートラルにする。 その足がかりになる重要なプロジェ
クトだ」と話した。
三菱マテは電線や電気自動車(EV)に必要な高純度の銅を手がけている。 チリやカナダ
で採掘したものを国内で精錬しており、たくさんの電気を使う。
その全てを50年度までに再エネから「自給」できるようにする。 自社の風力、水力なども
含むが、全体のおよそ7割を地熱でまかなうことをめざす。
初めての地熱発電所を秋田県で稼働させたのは半世紀前のこと。 祖業の鉱山経営で
得た地質調査さのノウハウを生かし、鉱山や精錬所で使う電気の一部を自前でつくってき
た。
長い停滞期もあったが、11年の東京電力福島第一原発事故が転機になった。 再生可能
エネルギーの重要性が再認識され、12年からの固定価格買い取り制度によって採算が見込
めるようになった。
安比の発電所は、三菱マテが関わる地熱発電所としては4カ所目で、発電能力の合計は約
12万キロワット。 地熱では九州電力、東北電力に次ぐ。 新たな開発に向けた調査を北海道
や秋田県、福島県などで始めている。
開発 地元や温泉との関係が鍵
潜在力は世界3位
火山の多い日本は北海道、東北、九州を中心に地熱資源に恵まれ、潜在力は米国、インド
ネシアに次ぐ世界3位と言われるが、開発の実績はフィリピンやトルコなどより少なく10位
前後だ。
日本政府は、電力の固定価格での買い取り制度や国立公園や国定公園内での開発規制の
緩和などで後押しする。
国内での開発は、地元の自治体や温泉との関係が鍵を握る。 安比地熱発電所がある
八幡平市には、1966年に商業運転を始めた松川地熱発電所(東北自然エネルギー)も立地
し、その蒸気をもとにした熱水が地元の温泉郷や農業施設に供給されてきた。 佐々木孝弘
市長は「安比地熱などの環境に優しい電気を企業誘致に生かしたい」と話す。
一方、温泉に影響が及びかねない地熱開発は抑制しようと、独自の条例を設けている自治
体もある。 大分県別府市や群馬県草津町などだ。 日本温泉協会も「無秩序な地熱開発」に
反対し、地元との合意や被害が出た場合の補償などを地熱開発の条件にすべきだ、と主張
している。
地熱発電に詳しい東北大学の鈴木杏奈准教授は「ウランや天然ガスといった輸入原料に
頼りきる前に、純国産の地熱エネルギーを有効に使う必要がある」と指摘。 「持続可能な
開発には、計画ありきではない地元との対話や、それを踏まえた柔軟な対応が欠かせない」と
話す。
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