北海道の鈴木直道知事が、北海道電力泊原発３号機の再稼働の容認を表明した。
「原発の活用は、当面取り得る現実的な選択」と述べたが、道民の切実な疑問や不安は置き去りにされている。　苦渋の判断だろうが、懸念の払拭（ふっしょく）に必要な対策を練り、
実行に移して説明を尽くすことこそ、知事の責務だろう。

　知事は容認の理由に、全国的にも高い水準の電気料金を値下げする見通しを北電が示したこと、電力の安定供給や脱炭素電源の確保につながることなどを挙げた。

　一方、道が１１月までに道内１３会場で開いた住民説明会の参加者からは、避難計画の
実効性などに疑問や不安の声が数多く出た。　地震や津波で家屋が倒壊した場合に屋内
退避ができるのか、道路が寸断されたら避難はできるのか、避難用のバスの運転手は確保できるのか、といった声だ。

　泊原発に特有の事情として、核燃料の輸送船が出入りする新たな港を、敷地の外に造る
計画がある。　津波によって輸送船が漂流し、防潮堤を破損する恐れがあるためだが、
新港から原発に核燃料を運ぶ道路の安全性が担保されているかを疑問視する声もあがっ
ている。

　３号機の再稼働に向けた審査は、敷地内を走る断層が活断層でないことの立証に手間
取ったことなどから、過去最長の１２年弱に及んだ。　しびれを切らした原子力規制委員会
は、審査会合のたびに論点や作業方針を北電と確認し合う手取り足取りの「泊スペシャル」
と呼ばれる対応をとり、審査が進んで「適合」にこぎつけた経緯がある。

　さらには、津波対策の不備を理由に札幌地裁が３年前に運転差し止めを命じた訴訟は
札幌高裁で控訴審の審理が続く。　道民の不安の背景には、積み重なってきたこうした
対応に北電の力量不足を感じている面もあるのではないか。

　知事は道内経済の成長につながることも、容認の理由に挙げる。　次世代半導体メー
カー「ラピダス」がめざす２０２７年の工場の本格稼働や相次ぐデータセンターの建設計画
が念頭にあると思われる。　安心や安全と引き換えにはできない。

　原発の運転で増え続ける「核のごみ」の最終処分場の選定が進まないなかで、知事が
再稼働を容認することの説明も足りない。

　政府が再稼働への「地元同意」を道に求めて４カ月足らず、知事の判断は拙速と言わ
ざるを得ない。　政府の方針に沿ってなし崩しに「原発回帰」が進み、原発依存が固定化
していくことを危惧する。