(出典) 朝日新聞朝刊/2025年06月05日
判断ミスをした東京電力の旧経営陣は、13兆円の賠償金を支払え---。 福島第一原発
事故の責任をめぐり、一審・東京地裁は3年前、過去最高額とみられる巨額賠償を命じた。
6日に判決を言い渡す二審・東京高裁は、旧経営陣の責任をどう判断するのか。
あす東京高裁判決
株主側弁護団の海渡雄一弁護士は判決を前に、「未曾有の大事故が起きたのに、誰も責任
を取らないのは許されない。 高裁には賠償命令を維持してほしい」と強調する。
訴訟は、40人以上の東電の株主が起こした。 勝俣恒久元会長(昨年に死去)ら旧経営陣
が津波対策を怠った結果、原発事故が起きて東電に損害を与えたと主張。 旧経営陣5人
に、23兆円を東電に払うよう求めている。
2022年の一審判決は、旧経営陣が判断を誤り事故を招いたと認定。 13超3210億円を
支払うよう命じた。
最高裁の影響は
超高額の賠償命令は高裁で維持されるのか。 あるベテラン裁判官は「近年の司法判断を
踏まえれば、13兆円の賠償額が一転してゼロになる可能性が十分にある」と話す。
旧経営陣が賠償を命じられたのは、「経営陣が適切な判断をすれば事故は防げた」という
前提を地裁が認めたからだ。
近年の原発事故裁判で、最高裁は「東電が対策を講じても原発事故が発生した可能性が
相当にある」 「旧経営陣は巨大津波が来る現実的な可能性を認識していたとは言えない」
などと言及。 最高裁の判断は下級審にも影響を与える可能性が高い。
このため、「対策すれば事故は防げた」という地裁判決の前提を高裁が認めなければ、
旧経営陣の賠償責任が否定され、13兆円がゼロになる---との理屈だ。
勝訴なら増額も
これに対し、株主側の勝訴が維持されれば、賠償額が13兆円よりもさらに増える可能性も
ある。
地裁の賠償命令は、事故後に生じた廃炉や除染費用、避難者への賠償額などを「旧経営陣
が会社に与えた損害」として積み上げた結果、前例のない規模に達した。
汚染土壌処理の本格化などに伴い、こうした費用は地裁判決後も増えているため、賠償額
が増額されることもある。
今回のように、経営陣が会社に与えた損害の責任を株主が追求する訴訟は、「株主代表
訴訟(株代訴訟)」と呼ばれる。
株代訴訟では、賠償命令が確定しても、賠償金は全額を会社が受け取る。 裁判を起こし
た株主には1円も入らない。
仮に賠償命令が確定した場合、賠償金は旧経営陣ら個人の資産から支払われる。 応じ
なければ、会社側は財産差し押さえなどの強制執行ができる。
とはいえ、兆単位の賠償金はあまりに巨額で、株主側の弁護団も「個人で払える額では
ない」と認める。 最終的には、自己破産などの手段で可能な金額を回収するのも選択肢の
一つだという。
裁判長の現地視察 二審でも
23年に始まった二審では、東京高裁の木納敏和裁判長ら2人が原発の敷地内を昨年視察
した。 視察は一審に続き2回目。
木納裁判長は、東電の説明を聞き、津波の侵入経路や浸水対策工事の現状を確認したと
いう。 同行した株主側の海渡弁護士は「対策すれば事故は防げたと、高裁にも分かってもら
えたのではないか」と振り返る。
二審では、被告の旧経営陣のうち、一審で実施されなかった元常務の証人尋問も行われ
た。 元常務は、10メートル超の津波予測があったのは知っていたとしつつ、「津波対策は
十分しているとの認識だった」と責任を改めて否定した。
(黒田早織)
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