徒然草津生活 Since 2010 (2号館)
「原発で電気代下る」は言い過ぎ
NPO「原子力資料情報室」事務局長
松久保 肇 さん
(出典) 朝日新聞朝刊/2025年05月08日
原発は安い、というけど、本当なのか。 原子力に依存しない社会の実現をめざすNPO
法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は、そう単純ではないと指摘します。
NPO「原子力資料情報室」事務局長
松久保 肇さん
まつくぼ・はじめ
1979年、兵庫県生まれ。 金融機関勤務を経て、2012年からNPO法人「原子力資料
情報室」スタッフ。 22年からは経済産業省の「原子力小委員会」と「革新炉ワーキンググループ」の委員も務める。
経済産業省が昨年6月の原子力委員会で示したエリア別の電気料金によると、四国でも
原発は再稼働しているのに、稼働していない他のエリアと電気料金が変わりませんでした。
関西電力や九州電力と違い、四国電力はスケールメリットがないからだと思います。
四国電が持つ原発は伊方原発だけ。 再稼働したのは3号機のみで、電気出力も小さめの
89万キロワット。 3原発7基が再稼働した関電、2原発4基が再稼働した九電と比べれば、
1基だけのために人材などを確保しないといけないため、差が出るのだと思います。
米エネルギー原子力協会(NEI)が2025年に出したリポートも、同様のことを指摘していま
す。 原子炉1基だけの原発と、複数の原子炉がある原発の発電コストを比較すると、1基だけ
の原発のほうが割高だという結果でした。 よく言われる「原発を動かせば電気料金は下る」
は言い過ぎで、電力会社の置かれた状況によって、その影響度は違うと思います。
政府は、新たに「次世代革新炉」と呼ぶ原発への建て替えも進める方針ですが、この名称は
言い過ぎたと思います。
日米などでつくる「第4世代原子力システム国際フォーラム」という枠組みでは、原発のタイ
プを第1〜4世代に分類しています。 今の日本に多い原発は「第3世代」で、そこから安全
設備が改良された「第3世代プラス」はすでに欧米で運転しています。
高温ガス炉などは「第4世代」ですが、日本政府は第3世代プラスと第4世代、それ以外を
一くくりに「次世代革新炉」と呼んでいます。 国民を欺くようなマーケティング的な言葉だと
思います。
たとえば、政府は高温ガス炉で水素を安価に製造できると説明しています。 しかし、出力
60万キロワットの高温ガス炉1基で製造できる水素は年6万〜22万トン程度。 日本で50年
時点に見込まれる水素需要2千万トンに比べ、わずか。 技術的にできることと、社会的なイン
パクトは分けて考える必要があります。
原発の建設費も、海外ではとんでもない状態です。 1基あたりの建設費は、英国ヒンクリー
・ポイントCで約4兆円、仏フラマンビル原発と米ボーグル原発も2兆円を超えています。
原子力がもはや安くないことは明らかです。 政府はそれを認めたうえで、二酸化炭素の
排出量の少なさや、安定供給できるといった点を説明し、必要なのかを国民に問うべきです。
私は原子力に反対の立場ですが、国が「国民の理解を得たうえで政策を進める」と言うよう
に、きちんとステップを踏むべきです。
(聞き手・福地慶太郎)
TOPページへ戻る
