(出典) 朝日新聞朝刊/2025年03月18日
商業原発の原子炉の解体が17日、国内で初めて始まっ
た。 日本各地で待ち受ける原発の後始末。 国は廃炉を
決めれば、原発の建て替えを認める方針を示すが、廃炉
完了には廃棄物の処分など、いまだ解決策の見えない課題
が残っている。
中部電力浜岡原発1、2号機(静岡県)の廃炉作業では、約45万トンの金属やコンクリートの
廃棄物が生じる。 このうち約2万トンを占めるのが「低ベル放射性廃棄物」だ。
汚染レベルが高い順に、制御棒などを含む「L1」、原子炉圧力容器の一部などの「L2」、
周辺配管などの「L3」と分けらる。 各レベルごとに地中に埋めて、50年程度〜数百年の
監視が必要だ。 中部電によると1、2号機分の処分先は現時点で未定。 これまでの解体
作業で生じたものは建屋内で保管している。
1996年に日本で唯一の廃炉を完了した日本原子力研究開発機構の小型研究炉「JPDR」
(茨城県)では、約3770トンの低ベル放射性廃棄物が発生。 今も原子力機構の施設内で
管理しているという。
L1、L2の処分先の確保については、大手電力会社でつくる「電気事業連合会」が中心と
なって検討するが、議論は進んでいない。 電事連は「具体的な検討状況は申し上げられな
い」。
国の規則は、廃炉終了の条件のひとつに「汚染物の廃棄終了」と定める。 多くの事業者が
30〜40年の廃炉計画を描くが、完了するには発生した放射性廃棄物の処分先が確保され
ていることが前提になる。
こうした背景もあり、廃炉計画の延期も続いている。 当初は2017年度に廃炉を完了する
計画だった日本原子力発電東海原発(茨城県)は、廃棄物を収納する容器の検討に時間が
かかるなどして4回の延期を重ね、現在の計画は18年遅れの35年度に。 中国電力島根
原発1号機(島根県)も使用済み核燃料の搬出先の再処理工場の稼働が遅れていることなど
を理由に当初計画から4年の延期を発表している。
一方、放射線量が極めて低く安全性が確認された廃棄物を一般の廃棄物として扱う制度も
ある。 放射性物質の濃度が1キロあたたり100ベクレルを下回るコンクリートや金属は「クリ
アランス物」と呼ばれ、再利用できるとされる。 福井県では、県や電力会社が出資して、
今夏、クリアランス物の処理を行う全国初の企業ができる。
課題残し建て替え推進
政府が2月に閣議決定した新しいエネルギー基本計画では、廃炉を決めた原発を持つ電力
会社の原発敷地内での建て替え(リプレース)を進める方針が明記された。
関西電力は美浜原発1、2号機(福井県)が廃炉作業中で、リプレースが有力視されている。
朝日新聞の取材に対し、リプレースの検討状況について「現時点では決定したものはない」。
一方で、国の方針をふまえると、「将来の選択肢の一つになると捉えている」とコメントした。
九州電力は玄海原発(佐賀県)の2基を廃炉作業中で、経済産業省は、その分を川内原発
(鹿児島県)の「増設」にあてたい考えだ。 同社は「現時点で決まったものは何もない。 今後
の国のエネルギー政策のあり方や将来的な需要をみて検討する可能性はある」としている。
中部電力は11年の東日本大震災前に浜岡原発1、2号機のリプレースと位置付けた6号機
の計画を表明。 現状は「計画は取り下げていないが、スケジュールの見通しについて申し上
げる段階ではない」。
2機を廃炉作業中の日本原子力発電はリプレースの計画はないとするが、「敦賀3、4号機
(福井県)の計画実現に向けた取り組みを継続する」とコメントした。 このほか、廃炉を決め
た原発をもつ事業者はいすれも、現時点でリプレースの計画はないという。
廃棄物処分の問題が先送りされ続けるなかでリプレースが進めば、行き場のない廃棄物が
また増えると懸念される。
(矢田文、福地慶太郎)
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米先行「廃炉ビジネス」
英仏では政府が関与も
国際原子力機関(IAEA)によると、世界で廃炉を決めた原発は200基を超える。 このうち
約20基が完了している。
最も廃炉が進むのが米国だ。 電力会社にとって、廃炉のプロセスは利益を生み出しにく
い。 そのため、別の民間会社が原発を買い取り、廃炉事業を請け負う「廃炉ビジネス」が
確立している。 米国では民間による複数の処分場が稼働し、低レベル放射性廃棄物を受け
入れている。
廃炉で生じた放射性廃棄物の処分は世界共通の課題になっている。 ドイツでは一時的に
中間貯蔵施設に運び出すことで、サイトの廃炉は完了したとしている。 英国やフランスなど、
政府が処分場の運営や放射性廃棄物の管理にかかわる国も少なくない。
福井大の柳原敏客員教授(廃止措置工学)は「数百年に及ぶ管理を民間会社にゆだねて
よいのか。 (日本でも)汚染レベルの高いものだけでも国がある程度、関与していく必要が
あるのではないか」と指摘する。
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