電力 減らすはずが 結局は原発
燃料高騰で新電力に打撃 崩れた自由化の青写真
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(出典) 朝日新聞朝刊/2025年03月06日
東京電力福島第一原発事故は、電力政策も大きく揺さぶった。 電力小売り
の全面自由化で大手電力の独占が崩れ、原発への依存も減るかと思われた。
だが、足元では「原発回帰」への揺り戻しが起きている。
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燃料高騰で新電力に打撃 崩れた自由化の青写真
競争で電気料金が下がり、電力会社を選ぶことによって将来の電源構成が変わる----。
2016年に電力小売りの全面自由化が始まったころ、こんな期待があった。 実際に大手電力
の規制料金より安いプランが登場し、再生可能エネルギー由来の電気だけを買えるようにも
なった。
自由化の前は大手電力10社が営業エリアを分けて市場を独占。 電気料金は、発電所や
送配電網の建設費などに一定の利益を上乗せする「総括原価方式」という制度で決められて
いた。 この制度をもとに、原発などの「大規模集中電源」がつくられた。 東日本大震災では
それがあだとなり、計画停電を招く一因となった。
この制度は自由化とともになくなり、再エネの固定価格買い取り制度(FIT)とあわせて、
「分散電源」の普及も進むとみられた。 ただ、再エネの導入は道半ば。 一方で、老朽火力
を中心に、コストにあわない発電所の廃止が進んだ。
「自由化のもとでは、カネのかかる事業に投資しなくなる。 公益性の高い発電事業は自由
化にそぐわない」。 経済産業省のある幹部は言う。
自由化のほころびがあらわになったのが、ロシアのウクライナ侵攻だ。 電源構成の3割を
占める液化天然ガス(LNG)火力の燃料費が高騰。 大手電力だけでなく、電気を卸売市場
から調達する新電力の多くも大幅な値上げを強いられ、撤退に追い込まれる事業者も出た。
政府はこうした事態を重く見て、原発回帰に傾倒してゆく。
ただ、自由化のもとでは大手電力といえども、巨費がかかる原発の新規投資には及び腰
だ。 その背中を押そうと、政府は今年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画で、
ある布石を打った。 震災後に堅持してきた「原発依存度を可能な限り低減する」との文言を
削り、脱炭素電源の投資を促すため、「制度措置や市場環境を整備する」とも書き込んだ。
政府は原発を念頭に、総括原価方式に似た新制度を練り始めている。 建設費の「上ぶれ
分」を電気料金を通じて確実に回収できるようにするもので、当初の想定よりもコストが上昇
しても、安心して投資できる環境整えるねらいだ。 だが、自由化で再エネだけの電気を選ん
だ人も、原発の建設費を負うことになる。
大手電力でつくる電気事業連合会の林欣吾会長(中部電力社長)は2月14日の会見で、
発電事業への国の支援のあり方を問われ、「安定供給と自由化を両立できる制度を模索
する必要がある」と述べるにとどめた。
政府は原発回帰にかじを切ったものの、人材育成が追いついていない。
東日本大震災後に全国の原発が相次いで止まり、
再稼働もままならないなか、経験豊富な運転員の
多くが一線を退いた。 日本原子力産業協会による
と、運転や保守に携わる人は、2023年度は10年度
に比べて1割超減の約５６００人に。 原子炉の建設
に関わるのは約２５００人と、半分ほどに減った。
昨年、女川原発2号機を再稼働させた東北電力
は、原発を動かした経験のない運転員が全体の約
４割を占めた。 同じく島根原発2号機を再稼働させ
た中国電力は、約６割にのぼった。
学生の「原発離れ」も深刻だ。 原子力分野を専攻する学生数は、10年度の300人超から
減少傾向が続き、21年度は２２０人になった。 学生が敬遠するからと、学科や専攻名から
「原子力」を外す動きも相次ぐ。 経済産業省の幹部は「未来のない業界だと思われると、
学生が来なくなってしまう」と焦りを募らせる。
原発メーカーの東芝の元技術者は言う。 「ベテラン技術者たちが定年を迎えるまで、あと
数年。 このうちに人を育てられるかが勝負になる」
一方、世界では日本以上に原発回帰が進んでいる。 先導役となっているのが、GAFAM
と呼ばれる米IT企業だ。 米マイクロソフト(MS)は昨年9月、スリーマイル島原発で発電
する電力を購入すると発表した。 同原発は1979年、2号機で放射性物質が漏れ、米国史上
最悪の原発事故を起こした。 1号機は2019年まで運転を続けたが、MSは28年の再稼働
をめざす。
長期間停止した原発の再稼働にはリスクも伴う。 それでも活用を決めたのは、人工知能
(AI)の普及でデーターセンター(DC)の電力需要が飛躍的に伸びるとみるからだ。
国際エネルギー機関(IEA)の試算では、22年に4600億キロワット時だった世界のDC関連
の電力消費量は、26年に倍増する可能性がある。 米グーグルやアマゾンも、新しい小型
モジュール炉(SMR)の開発への投資を決めた。
新しいエネ基では、2040年度の電源構成に占める再エネの比率を、いまの2倍にあたる
4〜5割に引き上げるとした。 再エネを「主力電源」とし、それを助ける火力は3〜4割とす
る。
東日本大震災後、政府は再エネの導入を進め
ようと、固定価格買い取り制度を導入した。
12年度に10%だった比率は、23年度は23%に
倍増。 ただ19年度ごろから伸びが鈍化している。
主力の太陽光発電は、平地面積あたりの発電量が
世界トップクラスに達し、新設に適した場所が減り
つつあるからだ。
さらに普及を進めるため、経産省は軽くて曲げら
れる次世代の「プロブスカイト太陽電池」や、洋上
風力に期待を寄せる。 ただ、技術革新やコスト
削減がうまくいかなければ、想定どおりに普及しない可能性もある。
火力は半減させる。 震災以降、停止した原発の
穴を埋めるため火力に頼ったこともあり、12年には
火力の比率が9割を占めた。 だが、脱炭素の潮流
から厳しい目が注がれるように。 日本が50年まで
のカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出
ゼロ)を宣言したこともあり、投資は衰退した。
ただ、政府は再エネを普及させるためには、液化
天然ガス(LNG)などの火力が欠かせないとの立場
だ。 再エネは天候によって出力が変動するため、
その穴埋めをするためだ。
政府は火力の「脱炭素化」をはかるため、燃やしてもCO2を出さないアンモニアや水素を
石炭やLNGに混ぜて燃やす技術や、CO2を回収して地中に貯蔵する「CCS」の実用化に
取り組む。
(多鹿ちなみ、三浦惇平)
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