原発 廃炉の道 ここから最難関
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(出典) 朝日新聞朝刊/2025年03月05日
東京電力福島第一原発で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しが始ま
った。 事故から13年半かけて取り出したのは全体の12億分の1の一粒だ。
廃炉の最難関とされるのはなぜか。 三つのポイントから解説する。
ｐｏｉｎｔ１ 炉内 デブリの形状 溶け落ち方・・・はっきりせず 1〜3号機のデブリの量
計880トン (推計)
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1〜3号機には推計880トンの燃料デブリがあるとされる。 ロボットなどを入れて内部調査
を進めているものの、どこにどんな状況で分布しているのか詳しく把握できていない。
化学的な特徴もわかっていないことが多い。
昨年11月、東電は2号機の格納容器側面にある貫通口から「釣りざお式装置」を入れ、1セ
ンチに満たない小石状の燃料デブリを採取した。 原子炉から燃料デブリが取り出されたの
は事故後初めてだ。
取り出した燃料デブリの放射線量は、1〜2センチの距離で毎時約8ミリシーベルト。
核燃料の主成分ウランや、核燃料を覆う管の素材ジルコニウムなどが検出された。 今後の
本格的な取り出しの検討に役立てるとして、専門機関で詳しい分析を進めている。
ただ、各号機で事故の状況も異なり、今回取り出したサンプルが燃料デブリ全体を代表して
いるかは分からない。 東電は2号機で今春にも釣りざお式装置を使った2回目の取り出しを
し、分析のサンプル数を増やす考えだ。
当初の工程では、燃料デブリの2021年までの取り出し開始を目指していた。 だが、作業
時期は3度の延期を重ね、3年遅れた。 工程表の改訂を重ねる中で、取り出しは「小規模」
から「試験的」とスケールダウンもした。
2度目の試験採取 今春にも
最大の要因は約78億円の国費を投じた装置「ロボットアーム」の開発遅れだ。 今回の取り
出しにも間に合わなかった。 東電はアームを使った取り出し方針を維持するが、実施のめど
はたっていない。
政府と東電は51年までの廃炉完了を掲げる。 工程表では、廃炉作業の期間を3段階に
分け、燃料デフリの取り出しの開始を境に、最終段階である「第3期」に移行した。
ただ、11年12月に工程表を策定した際に明記した「20〜25年後に全号機からの取り出
し終了」との目標は今はなく、完了の時期は見通せていない。
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point2 大量のデブリ どうやって取り出す
3号機で検討されていた燃料デブリの取り出し方法
前例ない量・範囲 難しい作業に
東電は本格的な燃料デブリの取り出しを2030年代前半に、使用済み燃料の移動が完了
している3号機から始める予定だ。
3号機の取り出し方法については、廃炉の進め方に技術的助言をする「原子力損害賠償・
廃炉等支援機構(NDF)」が、「冠水工法」 「気中工法」 「充填固化工法」の三つを検討して
きた。
冠水工法は建屋の損傷が激しく、水をためることが難しいため断念。 昨年3月に気中工法
と充填固化工法を組み合わせた方法を提案する報告書をまとめた。
これを受けて東電が、実際にどのように取り出しを行うかを検討しているが、方法や開始
時期は決まっていない。
3号機で先行して燃料デブリの取り出しを進めた後には、1号機に取りかかる計画だ。
燃料デブリの分布状況などに応じて、工法を組み合わせるとするが具体的な議論はまだだ。
そもそも、これだけ広範囲に及ぶ燃料デブリを回収するのは世界でも例がない。
1986年に爆発事故を起こした旧ソ連のチェルノブイリ原発は建屋ごとコンクリートの「石
棺」で閉じ込めている。 燃料デブリの取り出しはできていない。
７９年に炉心溶融が起きた米スリーマイル島(TMI)原発は燃料デブリのほとんとが圧力
容器に残り、建屋の損傷も少なかったため原子炉を水で満たして作業した。 約１３０トンの
燃料デブリの回収に4年3ヵ月を要した。 週休２日で１日あたり１２０キロを取り出していた
ことになる。
福島第一原発は、燃料デブリの量も多く、格納容器まで溶け落ちているため、より難しい
作業を強いられる。 全量を回収するには170年かかるとの試算もある。
point3 取り出して どう処理する
貯水タンク跡地で一時保管へ
東電は、取り出した燃料デブリは遮蔽機能のある金属製の密閉容器に収納し、発電所構内
に整備する「セル」と呼ばれる金属やコンクリートで密閉した部屋で一時保管するとしている。
ただ、最終的な処分方法や処分先は決まっていない。 福島県は、燃料デブリを含む放射
性廃棄物の県外処分を国に求めているが、政府と東電は「燃料デブリの分析などを進め、
第3期に決定する」として議論を先延ばしにしてきた。
燃料デブリの冷却水に、雨水などが加わることで高濃度の放射性物質が含まれる汚染水が
生まれる。 汚染水から大半の放射性物質を除去した水をためるタンクは1千基超あり、敷地
を圧迫している。
2023年8月に処理水の海洋放出が始まり、昨年11月までに計10回、約7万8千立法メート
ルが海に流された。 放出は今後30年ほど続く見込み。 タンクで保管する水の量が減少に
転じ、今年2月には空になったタンクの解体が始まった。
21基のタンクの解体が計画されており、跡地約2900平方メートルには3号機から取り出し
た燃料デブリの一時保管や取り出し装置のメンテナンス施設の建設を予定している。
ただ、その後のタンク解体計画はまだ白紙だ。 燃料デブリの一時保管施設には約6万平方
メートルが必要と試算されており、敷地確保も大きな課題となっている。
(矢田文)
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