見えない完成 地元に不信感
青森 六ヶ所村再処理工場 26回目の延期
|
(出典) 朝日新聞朝刊/2022年9月8日
見えない完成 地元に不信感
青森 六ヶ所村再処理工場 26回目の延期
青森県六ヶ所村にある使用済み核燃料再処理工場の完成時期について日本原燃は
7日、県と村に対し、予定していた2022年度上期から延期すると報告した。
延期は26回目。 新たな完成時期は、原子力規制委員会の審査の長期化により現時
点では示せないとし、審査状況などを見極めたうえで「年内に公表する」とした。
原燃 新たに時期示せず
原燃の増田尚宏社長はこの日、青森県庁で三村申吾知事と面会し「これまで約束して
いた竣工時期を変更することになったことをおわび申し上げる」と陳謝。 審査が長期化
している要因について「申請書に記載すべき事項の整理や対象設備の明確化に時間を
要した」などと説明した。
完成時期について、三村知事は「時期を見直すのであれば、新たな竣工時期を明示
するのが当然」と批判。 「今後の事業の進捗に対し、県民の不安を引き起こしかねな
い」とし、審査が遅れた原因の分析や完成までの工程を示すよう強く求めた。 六ヶ所
村の戸田衛村長は「先の方向性が見えない。 立地自治体としては不信感を抱かざる
を得ず、不安も重なっている」と話した。
再処理工場は1993年の着工以来、トラブルが相次いでいる。
2001年には使用済み核燃料の貯蔵プールの水漏れが判明。 17年には非常用電源
建屋への雨水の流入など安全管理上の問題が相次ぎ、規制委の審査が止まる事態に。
今年7月には、高レベル放射性廃液が約8時間にわたって冷却できなくなった。
延期を繰り返した結果、建設費は当初の7600億円から3.1兆円に拡大し、稼働後40
年間の運営費や操業終了後の廃止費用を含めた総事業費は約14.4兆円としている。
原燃の増田社長は会見で、事業費が更に増える可能性を示唆し「原子力の発電コスト
が高くなると、原子力が日本の中で選択されなくなる」と危機感をあらわにした。
審査についても、足踏みをしている。 安全対策の基本方針については20年7月に新
規制基準への適合が認められたものの、同12月に申請した設備設計の審査が続く。
審査の場で資料不足や検討不足を指摘されたり、事前に提出を約束していた資料が
できていなかったり。 今年1月の記者会見で規制委の更田豊志委員長は、22年上期
の完成目標について「強烈にアンビシャス(野心的)だと思う。 今の時点で見通しが
立つような状況になっているわけではない」と指摘していた。
(土肥修一、高田誠、佐々木凌)
「原発活用」の政権に冷や水
再処理工場は、政府が推進する「核燃料サイクル政策」の中核施設だ。 岸田政権は
原発を最大限活用する姿勢を強めているが、足もとの課題は解決されていない。
岸田文雄首相は8月、原発再稼働の推進に加え、新増設や運転期間の延長を検討す
ると表明した。 大手電力の幹部は「国が原子力に積極的になっているところで、再処
理工場が足を引っぱるわけにはいかない」と打ち明ける。
大手電力はこれまでも業界を挙げて再処理工場の完成を後ろ押ししてきた。 原発の
再稼働に携わった「エース級」の社員ら約60人を日本原燃に派遣し、原子力規制委員
会の審査対応を支援している。 大手電力でつくる電気事業連合会は7日、サイクル
推進タスクフォースを立ち上げ、支援体制を強化すると発表した。
大手電力が焦るのは、この施設の稼働が「原発の継続的な利用に必須」(電事連)と
みているからだ。
すでに再処理工場には全国の原発から運び込まれた使用済み燃料が約3千トン保管
され、ほぼ満杯だ。 各地の原発で保管している分も、貯蔵能力の約8割に達している。
再処理工場が動かないまま原発の再稼働が進めば、保管場所が不足して原発が運転
できなくなる可能性がある。
使用済み燃料を再処理するときに出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)は、最終
処分場が決まっておらず、核燃料サイクル政策は行き詰まっている。
(宮川純一、山野拓郎)
 TOPページへ戻る
|
|
